人間性重視で挑む100年企業への道程

ATOM Works株式会社 代表取締役 岡山 康広 青森県出身。大学院卒業後2011年の東日本大震災の年に設立された同社の創業社長に就任(岡山企業グループとしては、創業者の次男であり2代目)。「原子力ルネッサンス」から一転した逆風の中、日本原燃株式会社の協力会社として事業基盤を構築。人間性を重視した経営と失敗を恐れない人材育成を掲げ、地域の雇用創出と日本のエネルギー安定供給に貢献している。 https://www.atom-works.jp/index.html

エネルギー小国・日本の現実を支える誇り

「今の豊かな日本があるのは、世界に誇る製造業や交通インフラのおかげです。しかし、それらを動かす『電気』が止まれば、工場も電車も、私たちの社会活動も一瞬にして停止してしまう。資源を持たない島国・日本において、エネルギーの安定供給は、まさに国家の生命線なのです」

エネルギー資源のほぼすべてを海外に依存する日本にとって、外部環境に左右されずに電力を供給し続けることは至上命題だ。再生可能エネルギーの普及が進む現代においても、安定的なベースロード電源としての原子力の重要性は変わらない。そして、その原子力を長期的に活用するために不可欠なのが、使用済み燃料を再処理してリサイクルする「原子燃料サイクル」である。
ATOM Worksは、この国家プロジェクトの中枢である日本原燃株式会社の再処理工場において、設備の工事、試験、メンテナンスを担う。さらに、高レベル放射性廃棄物を保管するためのステンレス容器の製造も手掛けるなど、その技術力は多岐にわたる。

「私たちが表舞台で脚光を浴びることはほとんどありません。しかし、私たちが現場で汗を流さなければ、日本の明かりは消えてしまうかもしれない。水や空気と同じように、電気というライフラインを守り抜く。その誇りが、社員一人ひとりの胸に深く刻まれています」

逆風の2011年、覚悟の船出

ATOM Worksが設立されたのは2011年。東日本大震災が発生し、原子力業界にとってかつてない逆風が吹き荒れた年である。世界中で「脱原発」の機運が高まり、先行きの見えない不安が業界を覆っていた。通常の経営判断であれば、事業の縮小や撤退を選ぶ局面だ。しかし、ATOM Worksは違った。

企業グループ創業者の父は、微塵もブレませんでした。『エネルギーを守る仕事は、日本にとって絶対になくならない。どんな時代でも必要とされる』と。その父の強烈な信念に背中を押され、私たちは逆風の中、アクセルを全開にして船出したのです」

父と二人三脚で経営の舵を取ることになった岡山だが、意外なことに、当初から高い志を持っていたわけではないという。「正直に言えば、楽をして生きたかったんです」と、彼は当時の胸の内を苦笑交じりに明かす。

就職氷河期の中、厳しい就職活動を避け、逃げるように実家に戻った。「お前は俺と一緒に仕事をするんだ」という父の言葉に乗っかっただけの帰郷だった。
しかし、経営者として社員とその家族の人生を背負う重圧、そしてエネルギー事業という公器を扱う責任感が、岡山を劇的に変えた。

「経営とは、自分のためではなく、社員のため、社会のためにある。それが腹の底から理解できたとき、私の本当の経営者としての人生が始まったのだと思います」

「中学校の野球部」からの挑戦

ATOM Worksには、全国からエリートが集まるわけではない。地元の高校や専門学校を卒業した若者たちが主役だ。岡山は自社を「中学校の野球部」とユニークに例える。

「大手メーカーさんがメジャーリーガーだとしたら、私たちは技術も組織力もまだまだ中学生レベルかもしれません。でも、だからといって卑下する必要はない。目指すのは甲子園、そしてプロ野球レベルです」

彼らが定義する「成長」はシンプルだ。「今はできないことが、明日できるようになること」完成されたエリート集団ではないからこそ、伸び代は無限にある。ただ言われた作業をこなすだけの受動的な仕事ではなく、「ATOM Worksならもっと難しい仕事も任せられる」と言われる存在へ。そのために岡山が徹底しているのが「失敗を責めない」文化だ。

「成功の反対は失敗ではありません。『何もしないこと』です。挑戦した結果の失敗は成長のための貴重なデータ。失敗を恐れて萎縮するような組織には絶対にしたくありません」この心理的安全性が社員の自律的な行動を促し、現場の技術力を着実に押し上げている。

技術よりも「人間性」。いい奴が集まる会社へ

採用において、岡山が何よりも重視するのが「人間性」だ。どれほど高い技術を持っていても、利己的でチームの和を乱す人間は採用しない。「多少不器用でもいい。仕事が遅くてもいい。困っている仲間がいれば自然と手を差し伸べられる、そんな『いい奴』に来てほしいんです」

コンプライアンスやハラスメントへの意識が高まる現代において、誠実さや優しさといった「徳」は、企業にとって最大のリスクヘッジであり、同時に最強の武器となる。技術は入社後に教育できるが、根底にある人間性は一朝一夕には変わらないからだ。

「私たちの仕事はチームプレーです。お互いを助け合い『あいつのためなら』と思える関係性がなければいい仕事はできません。だからこそ、うちは徹底して人間性重視。数字や効率の前にまず『人』を大切にする会社でありたいのです」

地域No.1の「100年企業」を目指して

岡山が描く未来図は明確だ。「地域ナンバーワン」、そして「100年続く企業」である。
売上の規模だけを追うのではない。この地域で最も信頼され、最も必要とされる企業になること。そして、自身が引退した後も、時代に合わせて形を変えながら、この六ヶ所村に在り続けること。

「会社が存続することで地域の雇用が守られ、若者が地元で夢を持って働ける。それがひいては日本のエネルギーを守ることにつながります」

かつて「楽をしたい」と故郷に帰ってきた青年は今、多くの社員の人生と日本のインフラを支える頼もしい経営者となった。「大した人間じゃないですよ」と謙遜する笑顔の奥には逃げずに積み重ねてきた経験と地域への深い愛情が滲んでいる。

北の大地、青森・六ヶ所村から日本の未来を静かに、しかし力強く照らし続けるATOM Works。「人間性」という灯火を掲げ逆風を力に変えて進む彼らの挑戦はこれからも続いていく。