青森のパスツール
天然痘の予防法を広めた細菌学者ルイ・パスツールはかつて、「機会は準備された心に微笑む」と語った。
この言葉の通り、青森の歯科医・石川佳和は、周到な研究と実践を積み重ね、従来の歯科治療の枠を超えた医療を追求している。彼の取り組みは、単なる口の中の健康を超えて全身の健康へと踏み込むものだ。科学的根拠を基盤としつつ、新たな視点から歯科医療を捉え、地域社会の未来に貢献し続けている。
短命県が乗り越えるべき壁
彼の人生は決して平坦な道ではなかった。小学生時代には身長が高かったため、周囲からさまざまな反応を受けることがあったが、中学時代にはバスケットボール部でセンターとして活躍し、周りの人間を実力で認めさせた。やがて小さい頃からの夢の実現に向けて医学の道に進みたいと感じ高校は進学校を目指していた。ところが、度重なる不運によって、本意ではない高校に入学する事態となった。「環境なんかに負けてたまるか、と強く思いました。意地ですよね…負けると思った時点で負けなんですよ。結果的に浪人もしましたが、受かるまで諦めなくて本当によかったと、心から思っています。大変なとき、支えてくれた両親には感謝しかありません。」
歯科大学に進学した彼が最も衝撃を受けたのは、自身の過去の歯の治療が「不適切治療」だったと知ったことだった。 小学生のころからずっと一本の歯の痛みに悩まされ続け、11年間も満足に食事を摂れなかった。治療に通い続けても痛みは取れず、ついには顎関節症を発症した。彼はその苦しみを誰にも味わわせたくないと誓い、咬み合わせと顎関節の専門医になることを決意する。大学院では、入れ歯治療を徹底的に学び、その技術を極めた。そして、全国でも珍しい「総入れ歯専門の補綴学(ほてつがく)」を研究し、青森に戻る。そして彼は青森の現実を知った。
青森は、日本で最も短命な県として知られている。癌の死亡率はワースト1位。飲酒量、喫煙率、インスタント食品の消費量も全国トップクラスだ。その現実を知った彼は、ただ歯を治療するだけでなく、「食生活を見直し、全身の健康を守る」という視点から歯科医療を捉え直し、「歯周統合医療」を提唱している。
「医学は、病気を治すものではなく、健康を維持するためのものだ。」彼はこの信念のもと、今も患者と向き合い続けている。
「歯周統合医療」という概念とは
桜川歯科医院は、彼の理念を具現化した場所だ。一般的な歯科治療はもちろんのこと、特に「入れ歯」と 「歯周病治療」、「顎関節症治療」に特化している。そして何より、彼が掲げるのは「歯周統合医療」という新たな概念である。歯周病は、単なる口の中の問題ではない。全身の健康に影響を及ぼし、がんをはじめ、様々な病気に罹ってしまうリスクを高める。そのため石川理事長率いる桜川歯科医院では、患者一人ひとりの生活習慣や食事、免疫機能までを総合的に診断し、根本的な健康改善を目指す。
ここで注目すべきは、石川がインプラント治療をほとんど行わないという点だ。多くの歯科医院がインプラント治療を提供するなかで、彼は異なるアプローチを選択している。インプラントは歯科的に優れた技術である一方で、桜川歯科医院では全身の健康とのバランスを考慮し、患者ごとに最適な治療法を提案することを重視している。そのため、取り外して清潔に保ちやすい入れ歯のメリットを活かし、快適に噛める補綴治療に力を入れている。
取り外して清潔にできることこそが、入れ歯の最大のメリットだ。石川理事長はそのメリットこそ、人が幸せを文字通り噛みしめることができる重要なポイントだと語る。桜川歯科医院では、彼自身の卓越した歯科技工技術により、患者が快適に噛める入れ歯の製作に力を入れている。
歯科医療のフロンティアを目指して
彼がどうしても伝えたいのは、歯の健康は全身の健康と直結しているという事実である。適切な食事と正しいケアが、長寿と豊かな人生につながる。医学の発展は日々続いているが、その本質を見失わず、根本から健康を支えることが最も重要なのだ。
「悩んでいるときこそ、きちんとした食事を摂るべきなんです。」と語る石川。精神的に落ち込んだとき、人は過食や拒食に陥りがちだ。しかし、そんなときこそバランスの取れた食事を心がけるべきだと石川理事長は語る。全身の細胞のエネルギーを作るミトコンドリアの機能が低下すると、精神的なバランスも崩れ、さらに 悪循環に陥るのだ。「例えば、失恋したときに何も食べられなくなりますよね。その後カップラーメンで済ませる。その繰り返しが体に大きな影響を与えるんです。」精神の健康は、肉体の健康と密接に結びついている。適切な栄養を摂ることが、人生の困難を乗り越える力になるのだ。
そして常日頃の心構えとして、石川は次のように説く。「人は壁にぶちあたると、その重圧に負けてついあきらめようと考えます。そこで深呼吸して「俺ならできる」「今だからできる」「負けてたまるか」を3回唱えることで自然と心が落ち着くので、不思議です。」
今、その意志は青森から東京へと広がりつつある。2025年3月、彼の娘が東京で開業する。それは、彼の技術と理念が、より多くの人々に届くことを意味する。彼の提唱する「歯周統合医療」は、2025年ついに書籍として出版。地方に根ざした革新が、ついに全国へと羽ばたく。
科学に国境はない。しかし、科学者には祖国がある。「健康寿命130歳プロジェクト」を掲げ、新たな挑戦に踏み出している石川佳和の祖国は青森、そして彼の戦場は歯科医療というフィールドだ。彼がこれから切り開く未来は、単なる歯の治療を超え、人々の健康と長寿を守る、新たな医学の地平である。