地域に愛される「人と人が集う場所」を次代へ
青森県三沢市。米軍基地や航空自衛隊、近隣のエネルギー産業など、独自の国際色と活気に満ちたこの街で、半世紀以上にわたり「街のランドマーク」として親しまれてきた場所がある。ホテルグランヒルつたや(株式会社つたや会館)だ。昭和、平成、令和と時代が移り変わる中、結婚式、宴会、そして宿泊と、地域の人々の人生の節目に寄り添い続けてきた同社は、2025年9月、新たな体制で再スタートを切った。
コロナ禍による苦境、先代社長の急逝という予期せぬ困難を乗り越え、新会社の代表取締役に就任したのは、かつてアルバイトとして同社の門を叩いた小川雅幸氏。「ナンバー2のナンバー1を目指してきた」と語る彼が、なぜトップとして舵を取ることになったのか。そして、彼が描く「つたや」の未来とは。その胸中に迫る。
アルバイトからの出発、そして継承へ
小川と「つたや」の出会いは約20年前に遡る。
高校時代から漠然とサービス業への憧れを抱いていた彼は、Uターン就職後、結婚情報誌『ゼクシィ』を見て求人に応募。当時の支配人が、館内を丁寧に案内してくれた姿に心を打たれ、アルバイトとして入社を決めた。
「当時の面接官だった支配人が、即座に制服を買いに連れて行ってくれるスピード感と情熱は今でも忘れられません。そこからフロント、司会者、営業と経験を重ね、気づけば20年近く、この会社という『家』で過ごしてきました」
現場の最前線でキャリアを積み上げてきた小川。彼には常に心がけていた一つの哲学があった。それは「ナンバー2のナンバー1になる」こと。トップを支える右腕として、組織の潤滑油となり、誰よりも頼られる存在を目指してきたのだ。しかし、転機は突然訪れる。コロナ禍による打撃に加え、先代社長の高齢化により事業承継が急務となったのだ。地域から「つたや」の灯を消してはならないと、六ヶ所村の企業がスポンサーとして名乗りを上げ、新会社が設立されることになった。その矢先、新会社発足のわずか9日前に先代社長が他界。「あとは頼む」という言葉を遺されたかのように、小川は新会社の代表というバトンを受け取ることになった。
「オーナーからは『現場を知る人間がやるべきだ!お前に掛ける!』と背中を押されました。ずっとナンバー2を目指してきた自分がトップに立つ。最初は戸惑いもありましたが、オーナーという経営者を支えるという意味では、形を変えた『ナンバー2』の極みを目指せるのではないか。そう腹を括りました」
「集う場所」を守るための組織づくり
新代表として就任した小川がまず着手したのは、「スタッフとの面談」である。「良いサービスはお客様への想いから生まれますが、それを生み出すのはスタッフです。」
一緒に現場で共に働いてきた仲間がこれまでの会社の体質をどう感じており、今後の会社に求めていることは何か?1対1で向き合った。
そして同じ方向へ向かう為に新たな社訓を策定した。『”帰り際”の笑顔』これは先代が、「館内にお客様がお越しになる時よりも、お帰りになられる時の表情を見るように」と常々口にしていた。提供したサービスやご飲食にご満足いただければ自然と表情に出るはずと考えたからである。また組織改編も実施した。これまで「営業」「ホールサービス」「フロント」は別々の部署だったが、「サービス部」と統合し事務所も一緒にした。
部署の垣根を超えてコミュニケーションを取るのが目的だ。そこから「この料理がお客様に好評だった」「この時間帯ヘルプ出来る?」といった会話が生まれ、チームの結束力が強まる。さらに、不規則になりがちな勤務体系の中で、スタッフがリフレッシュできるよう、「まかない」や「休憩スペース」の充実も今後計画したいと語る。
「お客様は、特別扱いされたい心理と、平等に扱われたい心理の両方を持っています。その機微を感じ取るには、マニュアルだけでなく、スタッフ自身の心の余裕と『気づく力』が不可欠です。私たちが目指すのは、ただの施設ではなく、スタッフの人間力を通して『また帰ってきたい』と思っていただける場所なのです」
また、既成概念にとらわれない人材登用も進めている。結婚・出産を経た女性スタッフがウェディングプランナーとして第一線で活躍できる体制を整えた。「経験者がライフステージの変化でキャリアを諦めるのはもったいない」という小川の想いが、顧客にとっても安心感のあるサポート体制へと繋がっている。
単なる「会場」から「プロデューサー」へ
新生・つたや会館が描く未来図は、単なる「場所貸し」に留まらない。
三沢市を含む上十三(上北・十和田・三沢)エリアにおける、イベントや宴会の「トータルコーディネーター」への進化だ。
「これまでは、お客様が決めた内容を私たちが会場として遂行する形が主でした。しかし、これからは私たちが幹事様の負担を減らすプロデューサーになりたい。例えば、企業の忘年会なら、会場提供だけでなく、企画、進行、予算配分まで私たちが提案し、運営まで請け負う。そうすれば、幹事様も当日ゲストと一緒に楽しむことができます」
地域における宴会需要やイベント運営を一手に引き受け、さらに人手不足に悩む近隣市町村へは、仕出しやケータリングで「つたやの味」を届ける。
「三沢市外からも多くの注文をいただいています。地域に守られてきた感謝を忘れず、今度は私たちが地域の食と集いのインフラとして、広域に貢献していきたい」
若き経営者として、新たな航海に出た小川。最後に、次世代を担う若者たちへメッセージを求めた。
「仕事は、楽しいものです。もちろん大変なこともありますが、自分の提案でお客様が笑顔になり、仲間と喜びを分かち合える瞬間は何にも代えがたい。若い皆さんには、その有り余るエネルギーを仕事にぶつけてみてほしい。私たちも変化を恐れず、新しい技術や感性を取り入れていきます。共にこの地域を盛り上げていきましょう」
「つたや」という暖簾は、小川雅幸という新たな旗手を得て、伝統を守りながらも革新の風を吹き込み、これからも多くの人々の「集う場所 準公共施設」として輝き続けるだろう。
