青森の厳しさがつくり上げた魂
青森は、静かに燃える都市だ。白銀の冬が訪れ、春は一瞬にして駆け抜ける。短い夏は熱を帯び、秋は豊穣の気配を纏う。ここでは何事もじっくりと鍛え上げ、しっかりと成長することが求められる。それは土地の文化であり、人の気質だ。速さを求めず、確実な歩みを重んじる…そんな青森の地で、鍛え抜かれた身体と精神をもって、ある男が己の道を切り開いた。
岡本星。パーソナルトレーナーであり、実業家であり、かつて大人気TV番組「SASUKE」に挑み続けた男だ。もちろん、彼の肉体は鉄でできているわけではない。しかし、彼の意志は鋼よりも強く、何度倒れようとも、また立ち上がる。岡本が創り出したBOOSTARは、単なるトレーニングジムではない。そこは、魂の試練の場であり、己と対話するための場所だ。
池に沈んだ男が再び立ち上がるまで
岡本の人生は、挑戦と闘争の連続だった。幼少期は野球に打ち込み、学生時代は夢中でバットを振った。しかし彼の胸の内には、もう一つの情熱があった。それが「SASUKE」だ。テレビで初めて観た瞬間、彼は雷に打たれたような衝撃を受けた。己の体一つで、己を超えていく。技術ではなく、道具ではなく、ただ純粋な身体能力と意志の力で前へ進む。それは彼にとって人生そのものだった。小学校5年生のときから応募を始めた。書類を送り続けた。8年間、計10回以上。しかし出場は想像をはるかに超える狭き門、倍率30倍以上を勝ち抜かなければならない。それでも、彼は諦めなかった。
そして2012年、第28回SASUKE。岡本星はようやくその舞台に立った。興奮と緊張、すべてが入り混じる中で挑んだSASUKE。しかし、ファーストステージの3つ目のエリアで、岡本は無情にも池へと落ちた。敗北。しかし、敗北は終わりではなかった。それは新たな始まりだった。彼は、倒れるたびに立ち上がることを選んだ。倒れたなら、さらに鍛えればいい。跳べなかったなら、跳べるようにすればいい。彼は、悔しさを筋肉に変え、努力を力に変えた。日々の仕事の合間を縫い、トレーニングに励んだ。自動車関係の仕事に従事しながら、帰宅後はトレーニング器具を並べた6畳の部屋で鍛え続けた。しかし、再出場は叶わなかった。
ならば、別の形で限界に挑むしかない。彼は新しいフェーズとしてパワーリフティングに目を向けた。純粋な力の競技。スクワット、ベンチプレス、デッドリフト。それらすべてを極めることで、己の強さを証明しようとした。そして、青森県大会66kg級で優勝。翌年も連覇し、記録を塗り替えた。だが、彼の目標はただの勝利ではなかった。彼は気づいた。「これを仕事にしたい」と。自分自身を変え、そして人々を変えることだった。単なるアスリートではなく、自らの経験を生かし、人々に貢献できる道を選んだのだ。
そして経営者へ
BOOSTARの誕生は必然だった。だが、現実は甘くない。最初の月の売上はわずか3万円。生活すらままならない状況だった。しかし彼は動じなかった。肉体だけではない、食事の管理、精神のサポート、ライフスタイルの最適化。来ていただいた方に岡本が持てるすべてを提供することで、彼はBOOSTARを「ジム」ではなく「人生を変える場所」にした。今では複数店舗以上を経営しており、2025年には5店舗目のオープンを予定している。
ユージン・サンドウは、19世紀にボディビルの概念を世に広めた先駆者として知られている。彼は単なる筋肉の誇示ではなく「人間の肉体は芸術であり、鍛錬によって高められるもの」と説いた。サンドウはトレーニングの科学を研究し、解剖学的な視点から合理的なトレーニング方法を開発した。
経営者としての岡本は、リピーターを生むための仕組みづくりに注力する。BOOSTARでは、短期的な結果ではなく、長期的な体質改善と継続を重視。個別のカウンセリングと遺伝子検査を活用し、科学的アプローチで最適なプランを提供する。分子栄養学に基づき、体を効率的に鍛えるメソッドを実践する現在のその姿勢は、まさにサンドウの哲学と共鳴しているといえよう。
鍛えることは生きること
岡本には、フィットネス業界全体に対する強い思いがある。日本のフィットネス人口はわずか3~4%。海外に比べ、圧倒的に低い数字だ。岡本は、ただトレーニングを教えるだけでなく、健康的なライフスタイルを広めることが使命だと考えている。そのためジュニアアスリート向けの食育講座や、法人向けの健康経営セミナーを開催し、企業や地域社会にも積極的に働きかけている。
彼が目指すのは、「誰もが当たり前にフィットネスを取り入れる社会」だ。ダイエットや筋肉増強のためだけではなく、人生の一部として、日々のエネルギーを最大化するための手段として、フィットネスを根付かせる。これは、サンドウが19世紀に始めた「強さと美しさの調和」を現代に受け継ぐ試みでもある。青森で生まれたなら、その厳しい冬の中で「覚悟」を抱いて強くなれ。倒れてもいい。ただ、立ち上がれ。そして前へ進め。岡本星は、それを証明した男だ。