仕事に正解なんてない

株式会社高橋製作所 代表取締役 田中 大志 1982年、青森県八戸市出身。2007年、東京理科大学大学院修士課程修了後、ソニー株式会社に入社。2017年株式会社高橋製作所に入社、取締役就任。2024年代表取締役就任。 https://www.kk-takasei.jp/

大型設備の「医師」

ジャック・ウェルチがGEの経営を担ったとき、彼が最初に行ったのは「変革」だった。旧態依然とした組織にメスを入れ、現場の声を吸い上げ、スピードと柔軟性を兼ね備えた企業へと生まれ変わらせた。そのカリスマ性と実行力は、多くの経営者の指針となった。青森県八戸市にも、彼のようなリーダーシップを発揮する人物がいる。それが、株式会社高橋製作所の代表取締役社長、田中大志である。

高橋製作所は戦後の混乱の中、八戸の地で産声を上げた。元々は東京都蒲田で飛行機部品や発電機を製作していたが、戦災により工場を失い、再起の地として八戸を選んだのである。船舶エンジンの修理から始まり、産業機械、鋼構造物、搬送設備など、大型の設備製造へと業態を拡大。日本の産業基盤を支える企業として、今日まで成長を続けている。

八戸という地方都市でありながら、高橋製作所の技術力は全国屈指だ。30トンのクレーンを2基備え、東北最大級の製造設備を持つ。その規模と技術力により、同業他社が手を出せない案件にも挑戦し続ける。「ここで作れなければ、関東まで行くしかない」と言われるほど、地域にとって不可欠な存在である。高橋製作所は、ただの製造業ではない。産業の根幹を支える「機械の医師」として、社会の血流を滞らせることなく、未来を切り拓いていく。その最前線に立つ田中大志は、挑戦を恐れず、常に新しい価値を創造し続けるリーダーだ。

 

課題を分解し、文化を創造する

彼の経歴は異色である。東京理科大学の修士課程を修了後ソニーに入社。最初はテレビの設計に携わり、その後カメラの開発へと異動。そのとき彼が手掛けたのは、プロフェッショナル向けの特殊撮影用カメラだった。並み居るエンジニアが「実現は難しい」と口を揃える中、彼はチームを率い、見事成功へと導いた。そのとき彼が大切にしていたのは、「メンバーがやりたいことを死守する」ことだったと語る。技術者の才能を信じ、チームの意見を最大限に尊重する。これは、彼が八戸に戻り高橋製作所で構築してきた環境そのものだ。

そして高橋製作所の経営者として、彼が最初に取り組んだのは「変革」だった。ジャック・ウェルチがGEの文化を徹底的に改革したように、田中は「昔ながらのやり方」にメスを入れた。地方の中小企業にありがちな「前例踏襲主義」を打破するためDXを推進。勤怠管理システムの導入一つとっても、反発はあった。しかし、彼は丁寧に現場の声を拾い、課題を具体的に細かく分解し、一つずつ、しかし確実に前進させた。その成果は目に見えて表れた。今では社員自らがタブレットを導入し、業務の効率化を提案するまでになっている。

高橋製作所のDXの軌跡は、単なる技術導入ではなかった。最初はメールすら使いこなせない環境だったが、まずは勤怠管理、次に社内情報共有、やがて設計のデジタル化へと進化した。田中は一つ一つの壁を壊しながら、社員の意識改革を進めていった。その過程で、社員が「自ら提案する」文化が生まれた。変革はトップダウンではなく、現場が主体となって動く。これは、田中が創り上げた最も大きな成果の一つだ。

 

刹那的に生きること

彼の信念は「刹那的に生きる」こと。これは、一瞬一瞬を全力で生きるという意味だ。「今この瞬間、全力を尽くせなければ、未来もありません。」彼のこの言葉は、仕事のすべてに貫かれている。

この姿勢は、彼のマネジメント手法にも色濃く反映されている。ただ現場に指示を出すのではなく、社員一人ひとりと対話し、それぞれが最大限に力を発揮できる環境を整えることに注力していると語る。彼が特に重視しているのは、社員の意見を真剣に聞くことだ。「経営層が思うことと、現場で実際に感じていることは違う。そのギャップを埋めるために、意識的に話をする時間を都度都度でしっかりとつくります」と彼は語る。その結果、社員の主体性が育まれ、今では現場から改善提案が出ることも珍しくなくなったという。

 

仕事に正解なんてない

田中大志は「考え、行動し、変わること」を信条とする。どんな仕事にも正解はない。むしろ、自分で道を作ることが求められる時代だ。失敗を恐れず、やりたいことを貫き、仲間とともに挑戦し続けることが、真の成長につながる。

さらに、彼が最も重視するのは人材育成だ。技術がどれだけ進化しても、それを使いこなすのは「人」である。社内には代表自ら研修制度を整え、技術習得だけでなく、リーダーシップやマネジメントスキルの向上にも力を入れている。「学び続けることが、企業の成長を支える。」その信念のもと、高橋製作所は日々進化し続ける。

ジャック・ウェルチがGEを世界的な企業へと変貌させたように、田中大志の挑戦は高橋製作所を次の時代の扉へと導く。彼の視線の先には、何があるのか。